金縛りにあうと、幽霊が見えそうだったり、見えたりと非常に怖いものですよね。
でも、結論から言うと、金縛りは霊感があるから起こったりするわけではなく、その原因は科学的に証明できるものなのです。
睡眠麻痺と入眠時幻覚
ナルコレプシーのページで説明した通り、ナルコレプシーの患者さんによくみられる他の症状としては、睡眠麻痺と入眠時幻覚があります。
睡眠麻痺とは、俗に言う「金縛り」のことです。
患者さんは寝床に入って間もなく、まだ眠ってはいないと自覚している時期に、全身の力が抜け、声も出せないという体験をします。
入眠時幻覚は、睡眠麻痺と同時に体験されることもありますが、やはり寝床に入って間もなく、まだ眠ってはいないと自覚している時期に体験する幻覚です。
恐怖感を伴った幻覚
姿や声が聞こえるわけではないが、ありありと人の気配を感じる、階段を上がってくる足音が聞こえる、窓が開いてカーテンがなびき、白い人影が音もなく忍び寄ってくる、その人影が身体の上に馬乗りになって首を絞めてくる、助けを求めるが声が出ない、などといった、通常は恐怖感を伴った幻覚が多いようです。
ただし、なかには、魔法の絨毯に乗って世界中を旅するといった楽しい体験をなさる方もいらつしゃいます。
10代の男女に起きやすい
ナルコレプシーの発症は10代であることが多く、発症後は症状の強さや頻度に変動はあっても生涯持続する病気です。男女差はありません。
1000〜2000人に一人程度の患者さんがいると見積もられています。実際にはもっと多いかもしれません。
決して稀な病気ではありませんが、あまり知られていない病気なので、診断治療されずに放置されている患者さんも少なくないと思われるからです。家系内に同じ病気の方がいらっしゃることは少ないとされています。
「金縛り」の原因
不思議な症状ばかりですが、これらの症状を睡眠の生理学の知識をもとに説明しましょう。
まずは、情動性脱力発作について説明します。
情動性脱力発作
情動性脱力発作は、完全に目覚めている時期に起こります。
そのため、麻痺が起こって体を動かすことも、しゃべることもできないような発作中にも、周囲の出来事や、自分の身体の状態をはっきりと認識し、それを記憶していられるのです。
では、この麻萆は何によるものなのでしょうか。夢見の睡眠であるレム睡眠の特徴を思い出してください。レム睡眠の時期にはどんなに激しい行動を伴う夢を見ていても、小さなピクつきを除いて身体は動きません。
レム睡眠の時期には全身の骨格筋にブレーキが働いているためです。このブレーキが大きな感情の動きによって誤作動を起こして、覚醒時に働いてしまうのが情動性脱力発作の正体であろうと考えられています。
睡眠麻痺と入眠時幻覚
また、睡眠麻痺と入眠時幻覚はどうして起こるのでしょうか。
正常人では、先にも述べたように、入眠後一時間から一時間半つづくノンレム睡眠の後に初めてレム睡眠が現れます。
ところが、ナルコレプシーの患者さんでは、このレム睡眠が寝ついて間もなく、いきなり生じてしまいます。そこで患者さんは目覚めていると自覚しているときにレム睡眠の骨格筋に対するブレーキと、夢を体験することになります。
それが睡眠麻痺と入眠時幻覚をもたらすのです。
入眠後15分以内に出現するレム睡眠を「入眠時レム睡眠期」と呼びます。睡眠麻痺と入眠時幻覚は、入眠時レム睡眠期のうちでも、入眠後5分以内に出現するレム睡眠に伴うことが一般的です。
脳波に覚醒を特徴づけるアルファ波が続くパターンからは始まりますが、アルファ波が消えると直ちに急速眼球運動が出現し、筋電図はピクつきを除いて平坦になります。すなわち、入眠後数秒でレム睡眠に突入してするのです。
金縛りはレム睡眠中に起こる
皆さんの中にも入眠時幻覚を経験なさった方がいらっしゃると思います。
若者、とりわけ女性ではその4割以上の方が、いわゆる「金縛り」として睡眠麻痺を体験していることがわかっています。
ただ、ご安心ください。この不思議な体験は、霊感が強いからでは決してなく、レム睡眠という科学の言葉で説明できるものなのです。
とくに、寝不足や不規則な生活が続いているときに起こりやすいので、ご注意ください。
金縛りはナルコレプシーの患者に特に起こりやすいですが、そうでない普通の人でも起こるのです。
睡眠麻痺と入眠時幻覚はレム睡眠の現象ですし、情動性脱力発作もレム睡眠と密接な関連をもつ症状です。
これら金縛りなどの症状を一括してナルコレプシーの「レム睡眠関連症状」と呼びます。