「不安の強い症例にゾルピデム(マイスリー)を服用した」ことで睡眠薬を多数併用することのの原因になることがあります。
ゾルピデム(マイスリー)は催眠鎮静作用をもちますが抗不安作用はなく、また、超短時間作用型なので、睡眠薬の効果の消失時点での覚醒反応に注意が必要です。
ここでは睡眠薬(ゾルピデム(マイスリー))とアルコールを併用して薬が効かなくなった例を紹介します。
目次
睡眠薬が効かなくなった男性
42歳男性の症例です。
半年前から生活上の強いストレスを原因とする不眠症のために、近所の病院を受診して睡眠薬の処方を受けていた。当初はゾルピデム(マイスリ一)5mgにてよく眠れていたが、徐々に中途覚醒が増え、アルコールを睡眠薬と同時に飲んで床につくことが常態化していた。
アルコールの件を診察で話したところ、主治医はアルコールの併用を強く叱責して禁止したうえ、数週間かけてトリアゾラム(ハルシオン)0.125mg錠2錠、フルニトラゼパム(サイレース)2mg錠1錠、クアゼパム(ドラール)15mg錠2錠に処方を増量し、睡眠は確保されるようになった。
ところが、数週間で再び中途覚醒が増加しはじめたため、患者はアルコールを再度飲んで眠るようになった。前回強く叱責されたこともあって今回は主治医にアルコールの併用を話せずにいた。
さらに2週間程度でアルコールの併用下にも中途覚醒が出現するようになったが、叱責されるのが怖くて主治医に相談できず、睡眠障害外来を初診した。
睡眠障害外来の対応
①アルコール併用による問題点を説明したうえでアルコールの中止を促し、当面は現在の処方を継続(トリアゾラム(ハルシオン)0.125mg錠2錠、フルニトラゼパム(サイレース)2mg錠1錠、クアゼパム(ドラール)15mg錠2錠)とし、下記を追加処方。
『ロフラゼプ酸エチル(メイラックス)2mg錠1回2錠、1日1回就寝2時間前』を追加処方。
または、②アルコール併用による問題点を説明したうえでアルコールの中止を促し、現在服用中の睡眠薬の中止も指示し、離脱症状について説明を行ったうえで下記を処方。
『クロナゼパム(リボトリール)0.5mg錠1回1〜2錠1日1回就寝2時間前』のみを処方
アルコールと睡眠薬の処方
睡眠薬が処方されても効かない場合、まず不眠の状況を洗いなおすことが必要です。
①不眠の確認
まず、日常生活への影響を評価し、本当に睡眠薬が必要な状態かどうか判断します。日常生活に全く問題がなければ、睡眠薬が必要な状態ではありません。
②睡眠薬服用方法の確認
ついで、睡眠薬の服用数時間前から能動的な活動は少なめにし、睡眠薬は服用したらすぐ床につく、という正しい睡眠薬の使用を行っているかどうか確認します。
③アルコールと睡眠薬
不眠で睡眠薬が効かないとの訴えがある場合、患者さんの多くがとる行動はアルコ一ルや睡眠薬の併用であり、必ず確認が必要です。
上に掲げた症例のように、不眠時のアルコ一ルや睡眠薬の併用は、睡眠薬の多剤併用につながり、また一旦多剤併用に陥ってしまうと離脱はかなり困難であるため、アルコール併用に対しては早期に対処する必要があります。
これらの問題点が大きくない場合に、睡眠中枢が正常に機能しない(脳機能低下やリズム障害など)か、睡眠が常に妨害されている(精神疾患や睡眠障害による)か薬物が期待される効果を発揮しない(薬物代謝の亢進や耐性の獲得)などの原因を考えていきます。
睡眠薬の多剤併用
ここでは症例として多剤併用に陥りそうな例をあげました。しかし、このような場合、全薬剤を中止することの適否については研究がなされていません。
- 指示を守らない患者に対し、主治医に求められる説明責任と処方についての責任。
- 全薬剤中止による離脱症状や精神症状出現の危険性。
- 薬剤の強制的な中止によりドクターショッピングが起こる危険性。
など、医療倫理を含めた多くの問題があるため、現状では、医療現場で各症例を観察し対応を決定せざるをえない状況になっています。
アルコール依存症の危険
睡眠薬を飲んでも、アルコール中止による不眠を改善することができないとこがあります。この状況で最も重要なことはアルコール依存への移行の防止です。
アルコール依存を食い止めるためには、断酒しても眠れる状況を作らなければなりません。
断酒で出現する事象を少しでも緩和する目的で、長半減期のベンゾジアゼピン系薬剤を投与することもあります。
ともかく、睡眠薬とアルコールの併用をやめるためには、まずお酒を止めなければなりません。