昼夜逆転している場合の睡眠薬の使い方を解説します。
昼夜逆転は様々な原因で起こります。それぞれの原因に合った睡眠薬の服用が大切になります。
目次
昼夜逆転の例
17歳女性。高校生。
元来の睡眠時間は8時間程度で、朝起きることが苦手だった。
夏休みが終わってから、目覚まし時計を複数用意しても昼ころまで起床できなくなり、心配した家族が起こそうとしても起きられず、家族の声かけには返事はするものの返事をしたことを覚えていない、という状態が続いた。
一方、夜は眠ろうとしても眠れないので、朝4時ごろまでパソコンで作業をしている状態にもなっていた。1力月程度経過したが昼夜逆転の睡眠覚醒パターンに変化がなく学校も遅刻の状態が続いたため、かかりつけの病院を受診した。
入眠時刻を午前1時ごろにして入眠時には寝室を真っ暗にするよう指導を受け、入眠直前にはブロチゾラム(レンドルミン)0.25mgが処方されたが、全く睡眠導入の効果はなく、結局朝4時ごろまで起きている昼夜逆転の状態が続いている。
昼夜逆転と睡眠薬
昼夜逆転の状態では精神疾患の併存が非常に多くみられます。
この場合に精神疾患の併存がない場合における昼夜逆転の治療を試みると、治療的介入(純粋なリズム障害の治療ではしばしば叱咤激励して治療します)や治療自体(リズムの変更自体が心理的/身体的ストレス要因となるようです)が反治療的となり、また大きなストレス因となるためか、ほぼ確実に疾患が悪化します。
このため、併存する精神疾患の治療を優先し、原疾患が相当改善してから昼夜逆転の治療を行います。
精神疾患の併存がない場合、昼夜逆転の状態に対しては、
①昼夜逆転の規則性、
②睡眠時間の変動、
③薬物療法に対する反応性、
の3点を観察して対処を考えます。
概日リズム睡眠障害
睡眠相後退症候群(DSPS)などの概日リズム睡眠障害では、メラトニンリズムに関係なく睡眠できる健常人と異なり、メラトニンが低値では睡眠できないことが示されています。
睡眠相後退症候群(DSPS)は、
①睡眠覚醒時刻が遅く生活に支障が出ている、
②毎日の睡眠位相は大きく前進はしない、
③午睡(昼寝)が少ない、
④睡眠時間は一定で長め、
⑤睡眠薬による睡眠位相の前進は困難である、
ことが特徴で、「意図的な起床は困難でも不可能ではないが、意図的な入眠は不可能」になっています。
上記の症例はこのDSPSに当てはまると思われます。この場合には大脳皮質機能のみを抑制する目的でゾルピデム(マイスリー)などα1選択性の強い睡眠薬の使用、メラトニンリズム自体に影響を与える目的でラメルテオン(ロゼレム)の使用や光療法などが試みられます。
高齢者や全身状態悪化の昼夜逆転
高齢者や全身状態悪化の昼夜逆転では、メラトニン産生の低下により睡眠覚醒が不明瞭になっています。
通常のベンゾジアゼピン系睡眠薬で加療すると、入眠機能が不十分な状態で、皮質機能の抑制と脱抑制状態を招来してせん妄状態が増悪する場合があり、症状増悪の場合は速やかに投薬を中止します。
休日の長時間睡眠で平日の睡眠が後退するパタ一ン
休日の長時間睡眠で平日の睡眠の位相が後退して昼夜逆転するパタ一ンが睡眠不足症候群でみられます。
これは代償性の睡眠時間延長ですので、睡目巧日誌の記録を観察しながら治療につなげます。
思春期以降の長時間睡眠での昼夜逆転
思春期以降の長時間睡眠では典型的なうつ病の診断基準には合致していなくても、非定型うつ病や季節性気分障害である場合が少なくありません。
特に平日の長時間睡眠にかかわらず休日は覚醒可能な場合には「心因性の長時間睡眠」を考えます。朝の定時の起床を強く指導することか有効な場合があります。
最後に、慢性的な過量の睡眠薬服用で不規則な昼夜逆転が起こることがありますが、急激な薬剤の減量は逆に薬物増量を招くことも多く、注意が必要です。
睡眠薬を多量に服用することは厳禁!
睡眠相後退症候群(DSPS)などのリズム障害を「不眠症」と判断し、入眠目的に睡眠薬を多量に服用することは厳禁です。
冒頭のような症例に対し、通常のベンゾジアゼピン系睡眠薬の増量や概日リズ厶と関連しない薬物を用いて早期入眠を試みようとすると、相当多量の睡眠薬が必要となります。
すると、翌日まで確実に睡眠薬の効果が持ち越し、結局は「服薬直後はぼうっとするが、結局眠る時間が来るまで眠れず、翌日は眠くて動けない」という状態になります。
通常の2〜3倍程度まで使用して無効である場合、それ以上の睡眠薬を使用せず概日リズムの問題を疑うことが必要です。