パーソナリティ障害を患う方の睡眠薬の注意点

パーソナリティ障害と不眠

パーソナリティ障害における睡眠薬の考え方を解説します。

パーソナリティ障害を持つ場合、薬の過剰摂取が問題になりがちです。

睡眠薬の場合も十分な注意が必要です。

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不眠に悩む25歳女性

下肢骨折の治療にて整形外科に入院となった25歳の女性患者の例です。

他院精神科にも通院中で、詳細は不明だが、気分の落ち込みや不眠などのため抗うつ薬や睡眠薬の処方を受けているとのことである。

入院当初よりイライラ感が強く、夜間大声で電話をしていたところを看護師に注意された際、「そんなルールは聞いていない」と激昂することがあった。

他方、整形外科主治医にはしくしくと泣いて謝罪した。感情が極めて不安定で人によって態度を変えたりするため、看護師は対応に困っていた。

そんな際、本人が夜間不眠を訴えて睡眠薬の追加を希望した。家族からの情報で、過去に交際相手とのトラブルから衝動的に向精神薬を過量服用(オーバードース)した既往があることがわかった。

うつ病かパーソナリティ障害か

上記の症例の場合、まず精神科を受診し、精神科診断名やこれまでの治療経過などの情報を集めたり、対応についての具体的なアドバイスを得たりすることが大切です。

特に、この症例では、本人の訴えだけで判断すると「うつ病だろう」と見当をつけてしまいがちです。

誤解が多いのですが、抑うつ症状を認める疾患はうつ病だけではありません。抑うつ症状イコールうつ病、ではないのです、うつ病か他の疾患なのかによって治療だけでなく対応のしかたが違ってくるのは言うまでもありません。

パーソナリティ障害

上に挙げた症例は、うつ病ではなくパーソナリティ障害の患者さんです。

過去の薬の過剰摂取(過量服用)については、うつ病によくみられる持続的で明確な希死念慮からの行動ではなく、周囲とのトラブルなどを契機とした衝動行為であり、パーソナリティ障害にみられる自傷行為の1つと考えられます。

パーソナリティ障害の患者さんはしばしば薬剤をため込んで過剰摂取するため、その可能性を十分考慮したうえで睡眠薬の処方も必要最低限でかつ適正使用(常用量内)にすべきです。

入院中の場合には、医療者に薬剤の管理を行ってもらうことも検討しましょう。

パーソナリティ障害と睡眠薬

パーソナリティ障害と睡眠薬

20世紀後半になるまで、睡眠薬の主流だったのはバルビツール酸系という薬剤です。依存性や呼吸抑制など重大な副作用が極めて多く、過量服用による事故死や自殺のリスクが高いことが指摘されていました。

現在臨床で多く用いられている睡眠薬はベンゾジアゼピン受容体作動薬で、比較的安全性が高く、パーソナリティ障害に多い過量服用があっても薬剤の直接的な毒性が原因で致死的になる可能性は低いとされています。

ただし、中枢神経系に影響を及ぼす薬剤などと併用することや、過量服用後の誤嚥や溺水などにより死に至ることもあるため、直接的な関与はなくとも、十分注意が必要です。 

必要以上の睡眠薬(種類・量)を処方してもらわない

特に、パーソナリティ障害の患者さんなどで、薬の過剰摂取(過量服用)の既往がある場合、処方する薬剤については必要最低限でかつ適正使用に努めることです。

また、過量服用を想定し、その際に重篤な副作用が危惧される薬をできるだけ避けて処方してもらう視点も重要です。

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