妊娠中の不眠に対する治療は、睡眠薬を使ってもいいのでしょうか。
妊娠中または、授乳中には子供(胎児)への影響を考えて睡眠薬を服用しなければなりません。
妊娠中、授乳中の睡眠薬の危険性はどうなのかを解説していきます。
目次
妊娠中、授乳中の睡眠薬
妊娠中の睡眠薬の服用例
28歳女性、既婚。
長期不眠の加療の目的でトリアゾラム(ハルシオン)0.25mg、エスタゾラム(ユーロジン)2mgを就寝前に、ロラゼパム(ワイバックス)0.5mgを夕食後に連用していた。
月経が2週間遅れたため、市販の妊娠検査薬で検査したところ妊娠反応が陽性となった。患者は胎児への服用薬物の影響を心配し、自分ですベての薬剤を中止したが、中止翌日から全く眠れず、不安感も出現したため、緊急にかかりつけ医を受診した。
処方例1
現在と少しでも同様の治療効果を期待したうえで、使用薬物の単剤化も目的とし、トリアゾラムとエスタゾラムを中止し、下記を夕食後単回から夕食後と就寝前2回に服用方法を変更して継続処方。
・ロラゼパム(ワイパックス)0.5mg錠1回1錠、1日2回夕食後と就寝前
処方例2
不眠にはこれまで通りの効果は期待できないが、服薬中止による不安など離脱症状の防止を新しい治療目標とすることを説明したうえで、現在服用している薬剤をすべて中止し、新たに下記を処方。
・クロナゼパム(リボトリール)0.5mg錠1回1錠、1日1回夕食後
処方の目的
単剤化を目的とした処方です。
いずれの処方例も離脱症状の防止を主目的としていますが、処方例1では睡眠薬中止による不眠への対処を目的に、処方例2では離脱症状の防止のみを目的としています。
ほか、妊娠中期〜後期では投薬による新生児に対する毒性、離脱症状、新生児仮死、黄疸などに注意します。また、出産後に薬剤を母体に投与する場合、ごく微量ですが母乳から乳児に薬剤が移行するため、母乳での育児を禁止します。
睡眠薬の妊婦に対する危険性
妊婦に対する睡眠薬の米国食品医薬品局(FDA)の評価が下の表です。
睡眠薬の妊婦に対する危険度一覧
危険度 |
睡眠薬の種類 | |
妊婦に対する、危険性が見出されない。 |
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妊婦に対して、危険を示す証拠がない。 |
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妊婦に対する危険性が否定できない。 |
ゾルビデム(マイスリ一)、エスゾピクロン(ルネスタ)、ゾピクロン(アモバン)、ミルタザピン(レメロン・リフレックス)、トラゾドン(レスリン・デジレル)、クロルプロマジン(コントミン)、クエチアピン(セロクエル)、ガバペンチン(ガバペン)、アモバルビタール(イソミタール)、抱水クロラール(エスクレ坐剤) |
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妊婦に対する危険性を示す証拠がある。 |
クロナゼパム(リボトリ一ル)、ニトラゼパム(ベンザリン)、アミトリプチリン(トリブタノ一ル)、カルパマゼビン(テグレトール)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、フェノバルビタ一ル(フェノバ一ル)、ペントバルビタール(ラボナ) |
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妊婦に対し禁忌である。 |
フルラゼパム(べノジール、ダルメート)、エスタゾラム(ユーロジン)、トリアゾラム(ハルシオン)、クアゼパム(ドラ一ル) |
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未評価 |
リルマザホン(リスミ一)、ロルメタゼパム(エバミ一ル、ロラメット)、ニメタゼパム(エリミン)、ハロキサゾラム(ソメリン)、エチゾラム(デパス)、ミアンセリン(テトラミド)、ブロモバレリル尿素(ブロバリン)、レボメプロマジン(ヒルナミン・レポトミン)、トリクロホス(トリクロリール) |
睡眠薬の催奇形性に注意
妊娠中、特に妊娠初期では催奇形性に注意します。一般に催奇形性のリスクは、①投薬量が多いほど、②多剤になるほど、③妊娠15週未満、特に妊娠8〜12週時の投薬が、高いとされます。
しかし、無投薬の状態でも2%程度の奇形発生があるため、個別事例での因果関係の証明は特殊な場合を除き困難です。
服薬内容については、リチウム、抗けいれん薬>ベンゾジアゼピン系薬剤>抗うつ薬、抗精神病薬の順に催奇形性が高いと考えます。
妊娠中の不眠に対する治療
妊娠と不眠およびその治療の関係については、
①長期不眠が妊娠の開始および維持に与える影響、
②不眠症治療薬物の胎児その他への影響、
の双方を正当に評価して適切な治療戦略を見出す必要があります。
ところが、現在行われている研究は薬物の影響がほぼすべてで、不眠の妊娠への影響は研究が少ないため、論文などを当てにすると妊娠中の薬物療法はすべてよくないとの結論になりがちです。
しかし、一般に心的ストレスは視床下部一下垂体一性腺系に容易に影響して無月経や排卵異常をきたすことが知られ、実際に不眠症罹患と早産のリスク上昇が関連するとの報告もありますので、現状では妊娠中の不眠の治療は薬物療法も含め患者と医者が相談して決定するのが現実的です。
妊婦に対する睡眠薬の注意点
例えば、①危険性が高くとも確実に有効な薬剤の少量投与と、②安全だが有効性が疑問な薬剤の多量投与、の安全性の比較などは検討されていません。
また、投薬内容、投薬量、多剤併用、投薬の時期については、このうちどの要素が奇形発生に最も寄与するかも明らかになっていません。
妊娠中の睡眠薬の服用には更なる研究が待たれているという状況です。