高齢者の不眠に処方される睡眠薬について、症例とともに解説します。
高齢になると不眠に悩まされがちになりますが、薬物療法のみで解決しようとすることは御法度です。
「若いころの睡眠を取り戻したい」という希望で、やみくもに睡眠薬を増量することは厳禁です。
目次
高齢者の不眠
71歳女性。既往歴は特になし。
半年前に引越しをしたことを契機に、寝付きが悪くなり眠りも浅くなった。
夜眠れない分、昼寝をするようになり、若いころのような睡眠を取り戻したいとの希望で病院を受診した。
高齢者に処方される睡眠薬の例
高齢者に処方される睡眠薬の例を3つご紹介します。
処方例1
ゾルピデム(マイスリ一)5mg錠1回1錠、1日1回、就寝前
処方例2
エスゾピクロン(ルネスタ)1mg錠1回1〜2錠、1日1回、就寝前
処方例3
ラメルテオン(ロゼレム)8mg錠1回1錠、1日1回、就寝前
睡眠薬の処方理由
ラメルテオンはメラトニン受容体作動薬であり、筋弛緩作用などの副作用がなく、高齡者のようにメラトニンの生理的産生量の少ない場合に効果が得られやすい睡眠薬です。
そのほかの薬剤としては、クエチアピン(セロクエル)はせん妄や認知症に伴う行動障害や精神症状として不眠を生じている患者などで使用することが多い新規の抗精神病薬ですが、催眠作用も強く、筋弛緩作用もないことや、錐体外路症状も出にくいことから(非)ベンゾジアゼピン系薬剤に代わる薬剤としては使用しやすいもののひとつです。
ただし、α1阻害作用があるため、起立性低血圧(ふらっき)には注意が必要です。また糖尿病患者には禁忌です。
同様に、抗うつ薬であるトラゾドン(デジレル、レスリン)も催眠作用が強く、筋弛緩作用もないことから使用・併用の選択肢としてあげられる薬剤です。
高齢者と睡眠薬の考え方
加齢に伴うさまざまな睡眠の生理的変化に伴い、高齢者では不眠になりやすくなります。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬あるいはベンゾジアゼピン系睡眠薬を不眠のタイプ(入眠困難には超短時間・短時間作用型、中途覚醒には短時間・中時間作用型)に応じて使用するのが通常です。
ですが、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬やベンゾジアゼピン系薬剤では、せん妄、過鎮静、筋弛緩作用(ふらつき、転倒)、前向性健忘、呼吸抑制などの副作用が高齢者では出現しやすくなるため、このような薬剤を避けるか、使用する場合でも筋弛緩作用の弱い非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(ゾルビデム、エスゾピクロン)を少量使用する程度に留める方が安全です。
非薬物療法も積極的に行い、年相応の睡眠を目指す
また、高齢者の場合、薬物療法だけで対処するのではなく、非薬物療法を行う(組み合わせる)ことが最も重要です。
高齢者の不眠の非薬物的な療法で重要になるのは、さまざまな加齡に伴う睡眠の変化(睡眠時間の短縮や睡眠の質的低下、睡眠覚醒リズムが前進することなど)を踏まえた目標設定をすることです。
かつての若い頃のような睡眠を求めて、睡眠薬を求めるような高齢者の方には特に注意が必要であり、加齢に伴う睡眠の変化についてきちんと理解することが重要です。
つまり、高齢者になってからは、完璧な睡眠を目指すのではなく「年相応のほどほどの睡眠を目指す」ことが重要です。